時間の選択

家具を選ぶ前に、時間を選ぶ。

家具を選ぶ前に、時間を選ぶ。

家を整えようと思ったとき、多くの人はまず家具を探します。ベッドを選ぶ。椅子を選ぶ。テーブルを選ぶ。デザインや大きさ、価格や機能を比べながら、自分に合うものを探していく。それは、暮らしを形にしていく、大切な時間だと思います。

けれど、木と向き合いながら家具をつくり続けてきた私たちには、一つだけ、少し違う視点があります。家具を選ぶ前に、考えてほしいことがあるのです。

その家具と、どんな時間を過ごしたいですか。

朝、窓から差し込む光の中で、ゆっくりとコーヒーを飲む時間。お気に入りの椅子に腰掛け、本のページをめくる静かな午後。一日の終わりに、深く息をつきながら眠りにつく時間。

そうした時間を思い描いたとき、初めて家具の輪郭がはっきりと見えてくる。私はそう考えています。

家をつくる仕事を長く続けてきて、気づいたことがあります。人の心に残るのは、家具そのものの形ではなく、そこで過ごした時間だということです。どれほど美しい椅子でも、そこに座って過ごした記憶がなければ、ただの物になってしまう。逆に、なんの変哲もない一脚でも、そこで過ごした時間が豊かであれば、それはかけがえのない存在になります。

家具は、その人らしい時間を静かに支える存在。

だから私たちは、家具を「暮らしの道具」だとは考えていません。その人らしい時間を、静かに支えていく存在。私たちが木を削り、組み、仕上げていくとき、頭にあるのはいつも、そこに座る人がどんな時間を過ごすか、ということです。一本の木を選ぶときも、一つの継ぎ手を決めるときも、その先にある「時間」から逆算して考えています。

家具は、人生を変えるものではありません。けれど、その家具が静かに支える時間には、人生を少しずつ変えていく力があります。毎日の何気ない時間は、積み重なるうちに、いつの間にか人生そのものになっていく。派手に何かが変わるわけではなくても、気づけば、その人の暮らし方や心の持ちようが、少しずつ違ったものになっている。私たちは、そういう変化をずっと見てきました。

だからこそ、家具を選ぶということは、これから自分がどう時間を過ごすかを選ぶことでもあるのです。

「どんな時間を過ごしたいか。」

もし今、新しい家具を探しているなら、一度だけ立ち止まってみてください。「どんな家具が欲しいか」ではなく、「どんな時間を過ごしたいか。」

その問いにゆっくりと向き合ったとき、本当に自分らしい家具の姿が、少しずつ見えてくるはずです。